2010年・ひとりごとに書いた「誤診との間」の記事を抜粋して載せています。興味のある方はお読みください。
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思い返せば (誤診との間ー1)
夫は今、癌だったか?癌以外の疾患だったのか?の分かれ道に立っています。思い返すと、大きな運命の転換期にあったともいえます。
夫の家族には、癌で亡くなった人や癌の治療を受けた人が大勢いて、夫は40歳を超える頃から熱心に人間ドックを受診してきました。
癌になり易いDNAを受け継いだ身体の持ち主を自覚して生きてきました。お兄さんの亡くなった年齢を基準に自分の寿命を想像したり、
早期発見でそれを切り抜けようと考えたりしていたものです。 そのため今回の検診で「膵臓がん」と診断された時、誰も疑う余地のない
状況にあり当然の状況として受け入れざるを得なかったのです。日本経済新聞で「癌検診にも不利益」という記事を読んだ時にも、
夫はDNAが癌体質だから不利益をこうむることにはならないだろうと思ったものでした。
約7年前インターネットで国立がんセンター・ガン予防検診研究センターでペット検診によるがん検診の治験者の募集を見つけ、まだ松山に
ペット検診が導入されていない実情を思って応募しました。
その治験者とは、「5年後の追跡検診を受診します」と言う約束をする事でしたので、5年後の昨年ペットによるガン検診を当医療機関で
受診したのでした。初めにエコー検査をした段階で「あっ これは危ないですよ」と言っていたらしく、MRI検査とペット検査でも膵臓に異常が
見つかり癌と診断されていました。四国がんセンターもこの結果を信用し疑うことなく治療を進めましたし、四国がんセンターでの初めの
お話の中で「この大きさになるのは4−5年経っている」と主治医は言われましたが、毎年検診は受けていて、2年に一度はペット検査も
受けており、異常は見つかっていませんでした。
それなのに、そんな大きさに成長していると言うので「毎年検査はしていたのですが」と両医療機関に質問してみましたが、「半年くらいで
大きくなる事もある。とか、発見されるのが遅れる。」という答えでした。
そしてまた、腫瘍マーカーが標準値を大きく下回っているのは何故なのか、聞いてみた医療機関もありますが「腫瘍マーカー値が低い癌も
あります」との返答でした。そういったすい癌が3ケ月後の最初の経過検査ですっかり消えていたのです。主治医によると「あまりにもきれいに
消えている。」と言うのです。膵頭部に14mm腫瘤、膵体部に35mm腫瘍を認める。何れも膵癌を疑います。との診断でしたし、訪ねた
医療機関の多くの医師が、「こういう癌はめずらしい」と言いってました。
ステージVからWaと言うのに転移はないようだと言っていました。その二つの癌が一気に消えたのです。
そこで主治医は癌と間違われ易い「自己免疫性膵炎の可能性が高いのではないか」と言います。
急遽抗がん治療を止め1ヶ月放置して改めて画像を撮ることになっています。
日経新聞で読んだ「癌検診にも不利益」をまさに自分で体験したかもしれない状況になりました。あまりに解像度が良くなった検診により
治療しなくてもよい癌を治療し、副作用被害が出ているという記事でしたが、誤診も起こる可能性を暗示しています。今後そうした誤診が
起らぬようこの事実を活用して欲しいものだと痛感したものです。強烈な副作用被害をこうむる前に判って幸運だったと受け止めることに
していますが、必要のなかった抗がん剤と言う毒薬を身体に入れたという事実が残り残念ではあります。(2010年・1月29日)
難しい診断 (誤診との間ー2)
二度目の経過検診がありました。画像診断では一ヶ月前との変化はありませんでしたが、血液検査に於いてIgG4という酵素の数値で
自己免疫性膵炎の可能性が強くなりました。健常人では70mg/dl以下の数値であるIgG4が、夫は271mg/dlという検査結果でした。
自己免疫性疾患では平均600mg/dlであるそうです。平均より数値は低いものの正常値ではなく、主治医の説明では「癌ではありません」
とのことですし、CT検査報告書でも、「現時点では膵癌(PaK)より自己免疫性膵炎(AIP)の経過の可能性が高いと考えます。」と
なっています。そこで、医療機関を変えて自己免疫性すい炎の治療を開始する事となりました。インターネットで自己免疫性膵炎を
検索してみると、「最近、自己免疫学的機序が発症に関与していると考えられている、自己免疫性膵炎が注目されている。」と
書かれています。そしてまた、「IgG4測定は本疾患と膵癌鑑別に有用です。しかし、IgG4が高値な膵癌も存在することは確かです。」
とも書かれており難しい診断と言えます。
ともあれ、主治医が「癌ではなかった。」と判断されたことで、私達は胸を撫で下ろし気分良く帰路に着きました。紹介状を頂いて他の
医療機関での治療を開始する予定が立てられました。
膵癌は進行が速く延命の望みの薄い疾患だっただけに、とりあえず命拾いの感があります。
無駄な治療を行った事も、命拾いに免じて深く考えないことにして、次の治療に励みたいものだと思っています。しかし、
セカンドオピニオンで訪れた医療機関の医師には「抗がん治療は、半年くらいしか効かない。一年以上生き延びたかったら手術しか
ありません。」などと言われています。医師も人間。神様ではありませんが、信頼すべき職業であり、命を託す人々であります。責任の重さを
自覚する必要を感じたものです。費やした多額の治療費と精神的ダメージは大きいものでした。医師の言葉には大きな重みが生じます。
あの苦しみは何だったのかと、苦しさを思い出したものでした。
とりあえず、手術を選択しなかった幸運を思い、神に守られたことに感謝し残りの人生を大切に生きることにしたいと考えています。
(2010年・2月・3日)
追記=普通、自己免疫性膵炎は膵臓がソーセージ状に肥大する様ですが、夫は膵頭部と膵体部に異常が出た上に肥大が少なかったことに
より誤診に至ったようです。癌にしても珍しい状態だった様です
膵炎・癌、どちらにしても、一箇所か全体に病状がでるのが通常らしのです。珍しい病巣が導いた結果だったとも言えます。
また自己免疫性膵炎の場合、目の下や顎の舌の下辺りに異常が出ている場合が多いそうですが、夫は両方異常は見られません
でしたので、判断が難しかった様です。
大きな疑問 (誤診との間ー3)
それにしても、私には大きな疑問が生じています。癌で無かった疾病に抗がん治療をしていた夫。
何故、自己免疫性膵炎が少しでも治癒したのでしょう。当疾患はペット検査で光るのだと主治医は言っています。インターネットでの情報では、
炎症部分にもブドウ糖の集積が生じるということですが癌であるか否かの判断は難しいものの様です。殆どガン検診として利用している
ペット検診で、初めに他の疾病を疑う余地は皆無であろうと思われます。しかし夫は3ケ月後に消えていました。
何時消えたのかは、不明ですが、消えて良かったと思ったものです。もし同じようにペットが光っていたなら、癌と診断されたまま、間違った
治療を受け続けたことでしょう。どの治療の成果なのか想像もできませんが、どれかが炎症を抑えたとしか思えないのです。何時か、新しい
主治医に質問してみようかと考えていますが、多分判断は出来ないかもしれない。自己免疫性疾患治療(ステロイドによる治療)を行わないで
炎症が治まったことに、大きな疑問が残っています。より重症になっていたとしてもおかしくないと言えるかもしれないのに・・・。
追記=ペット検診は、癌細胞が一般的に正常細胞に比べ3〜8倍のブドウ糖を摂取する特性があると言われ、ブドウ糖に似た特殊な
放射性薬剤を体内に注射し、薬剤の集合具合を画像化し癌診断する核医学検査です。 (2010年・2月・4日)
脱力感 (誤診との間ー4)
癌でなかったと判ってから、夫は脱力感が生じています。どれほど精神的に辛い状況にあったか、緊張していたか理解できます。
私はと言うと、初めの経過検診で、癌が無くなった画像を見た後に脱力感が出てきました。朝も通常の時間に起きられず、1時間半から
2時間くらい余計に寝ていたい状態でした。何かする意欲も薄れ、テレビを見たり、ごろごろとこたつに入っていました。
緊張の糸が切れたような感じでした。今、夫はそれの様で、今までやっていたことを残したままでいるようになり、「2回分まとめてやる」
と言ったりして座り込んで動きません。性格の違いでしょうか?
私は、癌が消えたことで即、安心モードに入りましたが、夫は主治医の判断が決定するまで、心配していたようです。「わかるなー」と
思って放置しています。人間の心は弱いものですね。心理的な影響は身体に大きく係わります。私がクリスチャンであるため夫は、
「葬式はキリスト教式で質素にやって欲しい」と言ってきましたが、癌の診断が出て半月で、「あんたと同じ天国へ行く」と言って教会の
礼拝に参加するようになりました。その為私も夫も、多分少し精神的ダメージを軽くしていたと思われるのですが、こんなに脱力感が生じます。
大きな変化の後の人間の心は、満身創痍と言えます。
どう結う事情かは問題ではなく、心理的ショックは耐えるにも、乗り越えるにも、原因が消滅した後も癒しの時間が必要と思われました。
生かされている者すべてに付き物の状態かもしれません。
肉体を離れるまで、肉の欲に左右されるのは必然ですが、肉体が滅ぶ時、信じてきた霊の世界(永遠の命)を理解し喜びとしてすんなりと
受け入れられるようになりたいものだと思ったものでした。
(2010年・2月・6日)
玉虫色の結果 (誤診との間ー5)
替わった医療機関での検査結果では、膵管の途絶と膵体部の腫れは無い様で治療の必要はなく経過観察となりました。不思議な結果です。
癌が消えたのか?自己免疫性膵炎が治癒したのかははっきりせず玉虫色判定になりました。癌であったものが薬や他の治療で消えたとも
言えるとのことで頻繁に経過観察をして様子を見ることとなった訳です。症状が出てからではない病気は、治療の判断が難しいものだと
思ったものです。日経新聞の「ガン検診にも不利益」は、まさしく幸運・不運を分ける事を物語っていましたが、夫の検診結果は、早く見つけて
大事に至らず良い結果を招く場合と、人体の不思議が起こす自然治癒したり、進行が遅い癌を発見したことによる副作用被害が生じる
可能性との両面性を証明してしまいました。この体験は、将来診断が改善され、後に笑い話となってゆく事を願っています。
(2010年・2月・9日)
M医師への質問 (誤診との間ー6)
私は病気が快復すれば問題はないのですが、何故か疑問が生じ、免疫治療を受けたクリニックの医師に質問いたしました。
文章は下記のものです。回答してくださる事を待っている現在です。
拝啓 中略 ご存じのように、夫は、定期ガン検診に於いて、膵頭部に14mm腫瘤、膵体部に35mm腫瘍を認める。何れも膵癌を
疑います。という診断を受けジェムザールによる抗がん治療とアルファ・ベータT細胞療法を併用して治療を行ってきましたが、3ケ月後の
経過検診のペット検診で、二つ共にすっかり消滅していました。
そこで国立・四国がんセンターの主治医は「あまりにもきれいに消えているので、癌ではなく自己免疫性膵炎の可能性が高い」と判断されて
再度のCT検査と血液検査を行いIgG4が271mg/dlという結果や膵管途絶、膵体部の軽度の腫れを認めるとのことで、自己免疫性膵炎の
治療のため他の医療機関への紹介状を頂きました。その医療機関でエコー検査を行ったところ、膵体部の腫れもなく、膵管の途絶もないと
いう結果となり、治療の必要はないという判断でした。そこで私達はインターネットで自己免疫性疾患や自己免疫性膵炎に関する報告を
読みましたところ、制御性T細胞に、量的もしくは機能的異常を認める。と報告されており、制御性T細胞の移入により発病後の
自己免疫性疾患を治療することが可能であると書かれていました。そこでお伺いしたいのですが、夫の行ったα・βT細胞療法のT細胞の
内訳には制御性T細胞は含まれているのでしょうか? 抗がん治療で自己免疫性膵炎が治癒したと思えなく、免疫細胞治療が制御性T細胞
をも増殖・活性化していて、制御性T細胞の異常を緩和したのではないか?などと疑問が生じております。お差支えないようでしたら、
培養したT細胞の中には制御性T細胞は含まれているのかどうか、教えて頂けないでしょうか? 後略 敬具
すっきりするかどうかは疑問ですが、知ることで多少の納得が得られると思った次第です。
医師にとって、この頃の患者は厄介でしょうね。インターネットで医師が読む論文などを読めてしまいますから・・。しかし、個人の尊厳を
重視した治療や医師と患者の関係が生きるとも言えると考えます。そしてまた、この頃は色々な形でセミナーが行われて、自分の病気に
対しての知識を広めていますので、患者自身も納得した治療を望む事につながるとも言えます。 (2010年・2月。10日)
M医師からの返信 (誤診との間ー7)
免疫治療を受けていたクリニックよりお返事を頂きました。載せて見ます。
当方の研究所での分析から分かっている範囲で、制御性T細胞の事を記します。
治療用に採決した血液中のリンパ球のTリンパ球と、αβT細胞法で培養して増えたTリンパ球とでの比較では、制御性T細胞数は
増加しますが、培養したTリンパ球全体に占める制御性T細胞の割合は低下します。αβT細胞法を癌の治療として施行すると、癌患者さまの
リンパ球の制御性T細胞の割合が低下することが確認されています。
一般論ですが、抗がん剤の中には制御性T細胞を抑制する作用を持つ物が知られています。
また、抗がん剤、手術、放射線療法などで治療効果が認められる症例では、リンパ球での制御性T細胞の割合が低下することが報告されて
います。
制御性T細胞の機能、種類、制御性T細胞をコントロールする方法については不明の点が多くまだ研究途上の状況です。
自己免疫性疾患を有する方には、原則として当医院のαβT細胞法をお断りしていますが、どうしてもαβT細胞法を試してみたいと望まれた
方々での経験からは、αβT細胞法が自己免疫性疾患を増悪することはありませんでした。
自己免疫性膵炎に関しましてはよく存じませんので、文献的な知識を記します。
制御性T細胞は、自己免疫性膵炎の病気の始まり(発病)と病状の進展(増悪)に重要な役割を果たしています。膵癌のうちで数パーセントの
例ではIgG4が高値を示す、という報告があります。
○○様の今回の病気に対して、ジェムザールが良い効果を示していることは間違いなさそうです。
@ジェムザールに感受性の高い膵癌(膵癌のうち数パーセントある)である。
Aジェムザールが自己免疫性膵炎に効いた。
@あるいはAのいずれに当てはまるか解りませんが、ジェムザールが特効薬の様によく効いたものと判断せざるを得ません。
細胞への毒作用から開発されてきた抗がん剤は、未知の作用が多い薬と思います。
免疫担当細胞のネットワークにジェムザールがどのような影響を与えるかについて触れた研究は目にしていませんが、またジェムザールを
自己免疫性膵炎の治療に使ったという文献も目にしていませんが、現在いくつかの同系統の抗がん剤が自己免疫性疾患の治療に
使われていますので、ジェムザールに新しい道が見つかったのかもしれません。(作用のメカニズムは不明ですが)病気の診断が確定して
いませんが、@,Aいずれの可能性もあると考えます。
というお返事を頂きました。身体の不思議を感じます。追求すれば解明される世界ではなく信念が無ければ、研究し続ける事も容易では
ないとも思え、研究者の存在は、ありがたい存在でもあるようですが、最終的には神の領域へとつながって行くようにも思えます。
命をコントロール出来る範囲は、人間には限られた範囲であろうと思わざるを得ませんでした。M先生、ありがとうございました。
(2010年・2月・18日)
診断結果 (誤診との間ー8)
自己免疫性膵炎の治療のため移った医療機関での2度目の経過検診があり、造影剤を入れたCT検査を行いましたが、画像診断では
問題なく、IgG4で300mg/dlを超える結果となっていたようですが、治療の必要はなく経過監査となり、3ケ月後の検査となりました。
一安心です。頻繁に検査をして、早期発見と早期治療に努めたいと思っています。 (2010年・3月・16日)
大方の結果 (誤診との間ー9)
何度も検査を続けた結果、夫の膵臓には異常はなく、相変わらず腫瘍マーカーも基準値以下であり、igG4が正常値より高値であるが膵臓に
肥大が無いため治療の必要なしという結果でした。
膵臓がんとの診断でどんなに辛い思いをしたことでしょう。今となってみると、「今後 後悔しない人生を過ごしなさいよ」という警告だったかも
しれません。重い病を持った人に対する心遣いもより理解したかもしれません。ホッとしたと同時に、「何だったんだろう」と言う思いも湧いて
きますがとりあえず、安心したと言う所です。健康のありがたさは、筆舌に尽くし難いですが健康と言う恵みは例えるものが無い有難いもの
でした。これを読んで下さる皆さんもどうかご自愛下さって、健康に留意されて下さい。 (2010年・6月・26日)
癌と戦う2へ 続く。
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